CASE 43
沖縄県宮古島市
(2023年6月20日~2024年3月20日)
本音で語れる対話の場が広がり、
島の未来が見えてきた
「千年先の、未来へ。」――宮古島市が目指すのは、みんなでつくる持続可能な島の未来です。その実現を模索する中で、地域の課題に素早く対応し、取り組みを実行する組織として、官民が力を合わせる「千年プラットフォーム」の構想が生まれました。 プラットフォーム構築にあたり、「どうしたら地域の人たちと一緒に理想の未来を描けるのか?」「どんな言葉で伝えれば、想いが広がるのか?」悩みを抱えていたとき、ひとしずく株式会社にお声がけいただき、サポートを開始しました。 地域の人々が、対話を重ねて本音を語り未来へのビジョンを言葉にするワークショップを3回にわたり実施しました。 地域の想いをつなぎ、描いた未来に向かって行動を続ける宮古島の皆さんにワークショップの感想や、気付き、これから目指す未来についてお話しを伺いました。
官民連携で持続可能な島の未来を描く挑戦

ひとしずく担当 つちやあや(以下、つちや):
久しぶりに宮古島にお邪魔することができ、嬉しく思います!2023年6月から9ヶ月間、「宮古島SDGs推進プラットフォーム構築・運営業務」のサポートでご一緒しました。官民が連携して島のSDGsを推進するプラットフォームを構築する試みはどのようにスタートしたのでしょうか?
宮古島市役所エコアイランド推進課エコアイランド推進係 藤井大地さん(以下、藤井さん):
始まりは2008年に宮古島市が行った「エコアイランド宮古島宣言」にさかのぼります。この時から、宮古島では地下水問題や環境保全に関する課題意識が高まっていました。「千年先の、未来へ。」をスローガンとして、市として条例を制定し、行政、市民、事業者、観光客が一体となって持続可能な宮古島を作っていこうという方向性を打ち出していました。
さらに大きな転機となったのが2019年度から始まった環境省の「地域循環共生圏」事業への参画です。この事業は、地域の資源を最大限活用しながら、環境・社会・経済の課題解決を目指すというもの。この過程で、宮古島市は市民の皆さまと一緒にワークショップを開催し、「マンダラ」というツールを使って、市民の皆さまが抱える課題や目指したい地域の姿を明確にしていったんです。
このワークショップを通じて見えてきたのが、分野を超えて多様な主体が関わる組織の必要性でした。地域課題は日々変化します。この課題に迅速に対応するためには、行政以外に新しい官民連携の組織をつくり、よりスピーディに意思決定を行なっていく必要があるという結論に至りました。これを「千年プラットフォーム」と名付け、行政外に法人をつくることが決定しました。
つちや:
ひとしずくにお声がけをいただいた時、どのような課題や期待感があったのでしょうか。

宮古島市役所エコアイランド推進課エコアイランド推進係 髙原悠さん(以下、髙原さん):
持続可能な島の未来をつくる、官民連携のプラットフォームの法人化が決まったものの、私たちが目指す未来像を言語化できていませんでした。その言語化のお手伝いをしてくださる外部の方を探しており、ひとしずくさんに出会って、お声がけをしました。
つちや:
初めて出会った際にエコアイランドの取り組みなどについてご相談をいただき、環境問題をはじめとしたサステナビリティ分野についてのひとしずくの知見を取り入れていきたいとお話しくださり、そこからひとしずくの支援がスタートしたと伺っています。ありがとうございます。
久貝さんは、このプロジェクトへ継続して積極的に関わってくださり、法人化されるプラットフォームの理事長として活動を続けていらっしゃいます。普段は宮古島でどのようなことに取り組まれているのでしょうか?
久貝さん:
私は生まれも育ちも宮古島です。大学進学を機に島を出て、本土の大学に籍を置き、研究をしながらバスケットボールのコーチをしていました。あるとき、宮古島の母校で指導を頼まれたのをきっかけに島へ戻ってきました。部活の環境を整えたり、父母会を立ち上げたりしているうちに、地元でもっとできることがあるのではないかと考えるようになったんです。
そこで宮古島のアパレルブランド『MK BRAND』を立ち上げて、「ずみ」(宮古の方言で「最高、かっこいい」という意味)という方言を使ったTシャツを販売して2013年に法人化しました。その収益で子どもたちの体験機会や進学を支援しています。最近ではサトウキビの搾りかすを使った有機肥料作りなど、地域資源を活用したプロジェクトにも取り組んでいます。
つちや:
宮古島を次世代につなぐべく、幅広く活動していらっしゃいますね!お忙しい中でも、このプロジェクトに参加しようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
髙原さん:
私自身、島の未来について、危機感を感じていたためです。伝統的なお祭りや行事は衰退していって、宮古の良さをかたちづくってきた地域の活動が減っていると感じていました。それに、外からいろんな人たちが入ってきて、良い影響もあるのですが、島の本来の姿が書き換えられていくような不安もありました。例えばリゾート開発などで、島の美しい自然や景色がただ商業的に利用されているように感じることもあって。このままでいいのかな?とモヤモヤしていました。
それに加えて、環境問題の深刻化も大きく影響しています。私が子どもの頃、家から歩いてすぐのビーチでウニや貝を取って遊んでいましたが、今はもうそんな風景は見られません。理由は分かりませんが潮の流れが変わって、砂の地形も変化しており、昔は無かった砂だまりができたり、逆に砂が無くなっている場所もあります。間違いなく島の環境が変わっているのを肌で感じます。
私は、島が変わっていくことに対して、自分たちはどうあるべきなのかを考えて行動すべきだと思っています。たくさんの方々と『一緒に頑張りたい』という想いはあっても、周囲にそれをどう伝えていけばいいのか模索中でした。このままだと本来の宮古島が失われてしまうのでは、とモヤモヤした感情を抱えていました。そこで、「地域循環共生圏」事業の一環として「マンダラ」ツールを使用したワークショップを市が開催すると聞いて。それに参加すれば、自分がどう行動していくべきか分かるかもしれないと思ったのがきっかけです。
ワークショップをきっかけに、地域の人々の本音が見えてきた
つちや:
「千年プラットフォーム」構築のため、関わるメンバーの叶えたい未来像を洗い出し、プラットフォームの役割、官民の役割分担と取り組むべき内容と今後のロードマップを明確化する全3回のワークショップを実施しました。当社からアンドパブリック株式会社をご紹介し、長友まさ美さんとともにワークショップ形式で皆さんと全3回にわたって対話、ディスカッションをしました。
実際に参加した感想はいかがでしたか?

オンラインでインタビューに参加くださった久貝さんと一緒に(左から、つちや、久貝さん、髙原さん)
久貝さん:
目標を達成するために、どんな活動をして、どんな結果を目指すか、ロジックモデルをつくるワークショップへの参加は初めてで、最初は何を発言したらいいのか戸惑いました。それが、皆さんのファシリテートのおかげで、回を重ねるごとに「自分はこういうことは嫌だ」「これはちょっと違うと思う」と本音が少しずつ出てきました。みんなの腹の底にある想いを掘り起こしてくれた感じがありました。
つちや:
回を重ねるごとにみなさんの本音だけでなく笑顔も見れるようになったのが印象的でした。対話の中で久貝さんが「もっと自ら足を運び、地域の人と話していかなければいけない」と話していらっしゃったのも心に残っています。そう感じたのはなぜだったのでしょうか?
久貝さん:
参加メンバーの想いを取り入れながら、プラットフォームが目指す宮古島の未来像を言葉にしていったのですが、その未来を実現するためには島の全員の力が必要だと気づいて。あくまでも主役は島に住む一人ひとりです。この場に参加していない方も納得できる言葉で未来を語らなければという想いが強くなりました。そこで、自分たちの取り組みについて周知活動もあまりできていなかったと反省し、この場に参加していない地域の方々に会いに行って、私たちが何を課題に感じて、どういう未来を描いているか、ロジックモデルの考え方を含めて直接お話しして、意見を聞いてまわるようになりました。
髙原さん:
私もご一緒することもあります。
久貝さん:
私だけでなく、髙原さんをはじめとした市役所の方が一緒に顔を出すと、地域の方々はとても喜んでくれます。「何かあった時、気軽に相談してくださいね」とお伝えすると、普段は役場に顔を出さない人も、役場に来て悩み事を話してくださるようになったり。あとは地域の人が集まる飲み会に誘ってもらって、「どうせお前らに悩みを話しても聞いてくれないだろ!」とお叱りを受けながらも、本音をお聞きできる機会も増えました。こういった地域での課題について生の声を聞く機会が増え、情報が集まってきたのも、ワークでの気付きをきっかけに自ら足を運んだ結果、少しずつ信頼していただけているおかげなのかなと感じています。
つちや:
とても素敵ですね!ワークショップには、役場の課長職に就く方も積極的に参加くださっていましたね。
髙原さん:
ロジックモデルをつくる過程で、ありたい未来を実現するための人的資源について考えた際、地域の色々な人の名前が連なった中で、役場のメンバーの名前も地域の方々から自然と挙がっていたんです。マネジメントの立場ではなくて、同じ課題に取り組む仲間として役場のメンバーを受け入れてくださっていることに、官民連携へむけて前進できていることを感じることができ、とても嬉しかったですね。
最初は一歩引いて私たちの活動を見ていた方々も、最近は思うことをズバズバ言ってくださいます。「ここは問題でしょ?」「これっていいね!」「これだったら私たちも一緒にできるよ」などのお言葉をいただけるようになってきて。ワークショップで言語化した未来像を、地域の方々に話してブラッシュアップすることで、自分たちが何者で、どう行動していくべきか、整理ができてきたところです。
ワークを通して、みなさんが日頃考えていることや、宮古島の未来のために本気で取り組みたい!という想いや覚悟を改めてお聞きすることができ、プラットフォームの方向性が可視化されたのもとても良かったです。
ワークで描いた未来像は、今もブラッシュアップを続けている
つちや:
ひとしずくがアンドパブリック株式会社とともに行った支援についてはいかがでしたでしょうか?
髙原さん:
最初から最後まで、寄り添うことを大切にくださっていることを感じました。対話の中で出た言葉について、たとえその場の全員が理解できなかったとしても、一旦受け止めて、それをみんなが共感できる言葉に言い換えてくださったり。
宮古島は熱い想いを持つ方が多いからこそ、ビジョンを描く対話では衝突することもあります。実はみんな共通した想いを語っているのですが、少し言葉が違うと意見が衝突していると感じてしまう。皆さんが第三者として入ってくださったおかげで、みんなの共通する想いを汲み取ってビジョンを導くお手伝いをしてくださった印象がありました。それは期待していた通りですし、ありがたかったです。
久貝さん:
未来像を描く際も「どんな未来にしたいですか?」という問いだけでなく、いろいろな方向から問いを提供してくださり、とてもスムーズで柔軟な進行でした。
つちや:
ありがとうございます!どんどんみなさんの発言が増え、本気で話をしてくださり、ご一緒できて本当に良かったなと思いました。
逆に、今回の支援について、ひとしずくとしての改善すべき点がありましたらぜひ教えてください。
髙原さん:
ワークショップを経て、分かりやすく素敵なビジョンマップが出来上がったと思います。ですが、未来像の解像度をさらに上げるため、もっと話したかったという参加者からの声もありました。時間や予算の都合はあるものの、もっとワークショップを継続したかったというのが本音です。

全3回のワークショップを経て完成したビジョンマップ
つちや:
そうですよね。3回のワークショップで話したことをビジョンマップへギュッとまとめたのですが、もっと時間をかければ、よりみなさんが納得できるマップに仕上げることができたのかもしれません。3回のワークショップではやっと地域の課題が洗い出せてきた段階だったのかなと感じています。私もみなさんともっとお話ししたかったです。
髙原さん:
ビジョンマップの方向性は間違っていなくて、きっと、まだみんなの腑に落ちてないだけなのだと思います。例えば、「次世代へ繋ぐものが市民間で共有される」というフェーズがビジョンマップの中にあるのですが、次世代へ繋ぐものが何なのか、どのように共有するのか、具体的なイメージが共有できてないのだと思います。さらに時間をかけてビジョンを深掘りし、自分たちの言葉で語れるようになることが重要だと気づきました。
今は、ワークショップに参加していなかったメンバーも新たに加わり、ビジョンマップを見直しているところです。調整がつけば個人的には、あと5回ほどワークショップをお願いしたいぐらいです(笑)!
「千年先の、未来へ。」地域の誇りをつなぐ
つちや:
2024年11月に、官民連携のSDGs推進プラットフォームが一般社団法人として立ち上がったのですよね。私もPR業務でたくさんの地域の方とご一緒してきましたが、官民連携の組織が立ち上がるチャレンジングな事例、今後の活動がますます楽しみです。
一般社団法人の理事長に就任なさった久貝さんの、今後取り組みたいことはどのようなことでしょうか?
久貝さん:
より多くの人と話し、宮古島の人々が千年先も残したいことについて明らかにしたいと思います。その時に大切にしたいのが、一人ひとりが大事にする「誇りに思うモノやコト」。宮古の人に「この島の魅力は何ですか?」と聞くと、「海がきれいで、景色がよくて…」と考えながら答える方が多いのですが、「あなたがこの島で誇れるものは何ですか?」と聞くと、人柄、行事、地域のコミュニケーション、コミュニティなどすらすらと即答してくれる方が多い。思いもよらない気付きもいただくことができます。そのようにして地域に自ら足を運んで、たくさんの人の「誇り」を引き出し、ビジョンに反映させてブラッシュアップを図りたいと思います。
つちや:
たしかに、「誇り」というと自分が今感じていることを素直に言葉にできそうな気がしますね。これは私も新たな気付きをいただきました。
藤井さんは、2024年の4月からプラットフォームの法人化に関わっていらっしゃるとのことですが、いかがですか?

藤井さん:
いままで、市役所の力だけでは実現できなかったことを、民間の方々と一緒に行うことにより、より柔軟で素早い意思決定ができたり、より多くの地域の方と関われるのではないかと思っています。そのためには、島の方々の協力が何よりも必要なので、きちんと私たちの活動を自分たちの言葉で伝えることに注力していきたいと思っています。
つちや:
ありがとうございます。髙原さんはいかがでしょうか?
髙原さん:
まずは、より多くの方をこのプロジェクトに巻き込んでいくことです。地域の課題はそこに住む方々が一番よく知っています。積極的に伝えてくださる方もいる一方、課題を抱えていてもそれを声に出せない方々もいます。そういった方からも声を聞くことができる体制を整える予定です。そして持続可能な未来を実現するため、一人ひとりが小さいことでも意識や行動を変えていくことのできる環境を実現したいですね。
また、久貝さん、藤井さんが言ってくれた通り、自分たちの想いや島の皆さんの想いを言語化する取り組みは引き続き行いたいと思っています。
島の内外の方が困ったら、「まずはプラットフォームに相談せんと!」と思っていただけるような存在を目指したいですね。
つちや:
そうですね、今後もまたひとしずくがご一緒できる日を楽しみに、皆さんの活動にも注目しております!

左から、つちや、藤井さん、髙原さん
撮影:ほりごめひろゆき 編集:つじはらまゆき
RECENT WORKS
社名 | ひとしずく株式会社 |
所在地 | 本社:〒231-0021 横浜市中区日本大通33番地 小田原支社:〒250-0004 神奈川県小田原市浜町3-1-40 |
電話 | 045 900 8611 |
FAX | 045 330 6853 |
メール | info@hitoshizuku.co.jp |
代表 | こくぼひろし |
設立 | 2016年3月 |
資本金 | 3,000,000円 |
事業内容 | 広報及びパブリックリレーションズ代理業 ソーシャルグッドプロジェクトの企画・制作・運営 |
顧問弁護士 | 丁絢奈(よこはま第一法律事務所) |
税務顧問 | 元小出 悟(会計事務所ユニークス) |
顧問社労士 | 社会保険労務士法人ワーク・イノベーション |