CASE 39

株式会社 パルシステム・リレーションズ

(2022年10月1日〜2023年4月31日)

サステナビリティの専門家の視点から、パルシステムの課題と魅力を提言してもらえた

首都圏を中心とした1都11県の約170万世帯が加入する生活協同組合、パルシステム。その事業をクリエイティブとコミュニケーションの戦略立案と制作によって支えているのが、株式会社パルシステム・リレーションズです。パルシステムの公式ウェブサイトの一部として、サステナビリティを切り口としたページを制作することが決まり、ひとしずくに、客観的かつこの領域における専門的視点でのアドバイスを依頼いただきました。依頼して得たこと、実際にサイトを公開しての反響など、お話をうかがいました。

寄り添って、背中をちょうどよく押してくれる。そんな会社の姿勢を感じて依頼

株式会社 パルシステム・リレーションズ ディレクター 奥留遥樹さん

ひとしずく担当 ちばたかこ(以下、ちば):
まず最初に、このプロジェクトの概要と、ひとしずくにご依頼いただくにあたって奥留さんが持っていた課題感について、改めて話していただけますか。

株式会社 パルシステム・リレーションズ ディレクター 奥留遥樹さん(以下、奥留さん):
パルシステムは、社会課題や環境問題の解決に向けて、事業・運動を展開してきた生活協同組合です。しかし、SDGsの認知が高まり、世の中のさまざまな企業・団体が「サステナビリティ」の文脈で自らを語り始めた時、パルシステムが語らないことで、相対的に「サステナビリティを考えていない」かのように見え始めていると感じていました。社会をより良くしていくために40年以上活動してきているのに、世の中にはあまり認知されていない。パルシステムのコミュニケーションを担うディレクターとして、そんな状況を歯痒く思っていました。
そこで、2022年の半ばに、世の中の関心に沿った形、つまり「サステナビリティ」の切り口で、パルシステムの事業・運動を語り直すためのウェブページの企画が立ち上がったのです。

ちば:
「生活協同組合」は、その成り立ちからして、消費者自身の暮らしと社会課題が結びついた独特の組織ですよね。ですが、そのことは日本ではあまり一般的に知られていませんよね。

奥留さん:
そうなんです。そもそも生活協同組合は、消費者が出資金を出して組合員になり、協同で運営する組合です。なかでもパルシステム生活協同組合は、組合員と生産者がお互いに手を結んで、暮らしのなかからより良い社会にしていこうと志して活動してきた生協と言えると思えます。設立背景には、高度経済成長によって置き去りになってしまった食の安全性や自然環境の破壊への課題意識があります。40年以上前から、持続可能な食の生産と供給のしくみを作っていこうと運営されてきたんです。

現在では、1都11県約170万世帯の組合員で構成される大きな組合に成長しています。産地から直接、安全・安心な食べ物を届ける宅配サービスを軸に、再生可能エネルギーや福祉、平和活動に至るまで、幅広い社会課題を解決するための事業・運動に取り組んでいます。地域に根ざした組合でもあるので、地域ごとの課題に対応した事業も展開しています。
ただ、パルシステムが長年抱えている課題として、目の前の課題に真摯に向き合ってきた結果、たくさんの社会課題に対してたくさんの活動が活発に動いている一方で、単純化してわかりやすく伝えることが難しい、ということがありました。

ちば:
そこで、世の中に浸透してきた「サステナビリティ」という切り口で、事業・運動を整理して発信することになったのですね。ひとしずくにご依頼いただいた理由はどこにあったのでしょうか?

ひとしずく株式会社のちば たかこ

奥留さん:
私たちパルシステム・リレーションズは、パルシステムグループの一員として、事業や活動内容に精通しています。一方で、サステナビリティ広報の専門家ではありませんし、内部にいるからこそ、伝えたい思いばかりが先行してしまい、結果としてユーザーにとってわかりにくい状態になってしまわないかと。当初から、客観的な視点を提供してくれる外部パートナーが必要だろうと思っていました。
何社か思い当たる会社はあったのですが、まずお願いしてみようと思ったのはひとしずくさんでした。以前、ひとしずくさんが企画したプレスツアーに参加した時、この会社は信頼できると感じていたのが理由としては大きかったですね。

ちば:
2018年4月にパタゴニアさんの支援するゲストハウスをご案内した、山口県上関町でのプレスツアーですね。具体的にどんな点を「信頼できる」と感じてくださったのでしょうか?

2018年4月に山口県上関町で開催したプレスツアー。奥留さんはパルシステムの運営するメディア『KOKOCARA』のディレクターとして参加(撮影:ちばたかこ)この時掲載された記事

奥留さん:
「集客するために上手にPRをします」ということではなく、「伝える人に伝わるようにサポートしよう」とされていると思いました。クライアント・プロジェクトの大小に関わらず、寄り添って、必要な力加減で背中を押してくださるのではないかという予感がありました。
ひとしずくさんとパルシステムの、大事にしていることが重なると感じたことも、ご依頼した理由のひとつです。上関町のプレスツアーは、奇跡の海とも呼ばれる周辺の自然環境のため、原発の再考を訴えるメッセージ性あるものでした。「脱原発」「地域経済」「自然との共生」、それらはまさにパルシステムが掲げるテーマです。地方の小さなプロジェクトでも丁寧にサポートされている姿に安心感も覚えました。

ちば:
ひとしずくが大事にしている「後方支援」、「伝えない広報」のあり方を感じ取ってご依頼いただいていたのですね。そのように見えていたこと、そこに魅力を感じてくださったことがとても嬉しいです。

ひとしずくの助言で、ありきたりな表現に陥ることなく、パルシステムらしいサステナビリティ表現を追求することができた

ちば:
ひとしずくは今回、切り口の立て方を含めた企画内容について、適宜アドバイスをさせていただく、というサポートをしました。実際にご一緒して、期待に応えることはできたでしょうか。

奥留さん:
はい、期待通りでした。生活協同組合の特徴を踏まえ、どのように世の中の関心に添って見せていくか、適切にフィードバックいただいたと感じています。約半年間で2回フィードバックいただいたのですが、とくに1回目のフィードバックで、ターゲットの重要性を指摘いただいたのは大きかったですね。ターゲットを定めるべきだとわかってはいたつもりですが、内部で議論を重ねるうちに「組合員にも、世の中一般にも伝えたい」と想いが募っていき、対象を絞りきれていませんでした。ひとしずくさんからのご指摘は、再度議論するきっかけになり、「事業をよく知らない組合員」というターゲットを明確にできました。そのプロセスがなければ、きっと独りよがりで伝わりにくいコンテンツになっていたと思います。
コンテンツ制作を進めていると、表現のあり方ばかりに気を取られ、「How(どのように)」伝えるかを考えてしまいがちですが、その前に「What(何を)」「Who(誰に)」伝えるかという軸が必要です。置き去りにされがちなその点を指摘していただけて、ありがたかったですね。

ちば:
ありがとうございます。1回目のフィードバックは2022年の12月、ターゲットのほか、パルシステムさんらしいサステナビリティ表現について、サイトの構成などへの提案をさせていただきました。2回目は2023年4月、サイトで強調すべき切り口や、留意した方がよいサステナビリティ表現についてなどを中心に提言させていただきました。

パルシステム公式サイトのサステナビリティページ。2023年4月にオープンし、2024年4月現在も順次ページを公開中(https://www.pal-system.co.jp/sustainability

奥留さん:
どの指摘もありがたかったのですが、とくに「パルシステムらしいサステナビリティの表現を追求したほうが良い」と言ってもらったことが印象に残っています。大枠としては、一般的なサステナビリティ表現にパルシステムをフィットさせて語ろうとする試みとしてスタートしていました。今振り返れば、相談時にお見せしたコンテンツのタイトルは、一般的な、見方によってはありがちな表現になっていたと思います。パルシステムだから言えること、実際に取り組んできたことをきちんと言葉にすべきだと提言いただいたことで、パルシステムでしか表現できない伝え方になりました。まさに、背中を押していただいた言葉でした。

ちば:
公開されたページを拝見すると、サステナビリティの切り口とパルシステム独自の視点が融合して、伝わる見出しになっていますね。提案させていただいたことを取り入れていただいて、私たちも嬉しいです。
では、ひとしずくに対して、改善できそうなこと、あともう一歩足りなかったことなどは何かありますか。

奥留さん:
そうですね、こちらの反省点でもあるのですが、ひとしずくさんともっと良い接続のしかたがあったようには思います。「この領域ならひとしずくさんだろう」という確信はあったものの、正直なところ、どんなことをお願いできるのか、どう依頼すべきか、よくわからず、手探りだったというのはありました。振り返ってみると、仕事を依頼するタイミングが少し遅かったように思います。もっと企画の土台づくりのタイミングから伴走してもらえたら、もっとひとしずくさんの力を生かすことができたのかなと。

ちば:
お声がけいただいてから、サポート内容を決める話し合いに時間をかけてしまったことで、お仕事を開始するタイミングがさらに遅れてしまいましたよね。ひとしずくは、それぞれのパートナーさんの課題・状況に合わせて伴走支援することを大事にしているので、わかりやすいサービスメニューというものがありません。初めてのご依頼だとお時間をいただいてしまうことが多く、公開日の決まったウェブサイトの案件などではスピード感が合わない場合がありますよね。

奥留さん:
私は当初、オンラインで話を聞いてもらって、その場でコメントをいただければと考えていたのですが、ひとしずくさんはすごく慎重でしたよね。最終的に、オンラインでご相談した上で、ドキュメントとして提言をいただくことになりましたが、ドキュメントを納品していただくのはやはり大事だったなと思います。課題が具体的に見えるようになりました。
土台づくりのフェーズが終わりつつあるところで入っていただいたのですが、だからこそ、これは取り入れなければならないと感じるフィードバックをいただけて本当によかったです。

ちば:
2023年4月にページの第一段階が公開されて、反響はいかがですか。ページができたことでの内部・外部の変化などは感じていらっしゃいますか。

奥留さん:
内部の変化は、とても大きく感じます。会議などで「この情報はサステナビリティページだね」という会話が良く聞かれるようになりました。今までは、箱がなかったからうまく整理できていなかった情報を、「サステナビリティ」の箱ができたことで適切に収納できるようになりました。組織内部に、サステナビリティの文脈で情報を整理していこう、という共通の目的意識が生まれてきているように思います。
サステナビリティのウェブページができたことで、サステナビリティの重要性を、改めて組織内で認識するきっかけにもなったとも思います。例えば、生物多様性について。ひとしずくさんからの助言もあり、生物多様性を強調して、「ネイチャーポジティブ」など踏み込んだ表現をしていくことを提案し、制作に生かすことができました。その結果、パルシステムグループの各所で、サステナビリティに関する言葉と概念が浸透してきていると感じます。パルシステムが、農薬を削減した米作りを応援するという取り組みそのものは昔も今も変わりませんが、応援した先にめざすことが「ネイチャーポジティブ」という具体的な言葉を得て、共通するイメージを持てるようになっていくといいなと思います。

ちば:
サステナビリティページが、内部の共通認識を作っていくためのツールとしても機能しているんですね。現在第二段階までコンテンツが公開されていて、2024年以降も順次コンテンツが公開される予定とお聞きしました。今後、取り組んでいきたいことはありますか。

奥留さん:
ひとしずくさんからの提言にもありましたが、ウェブページを活用するための企画が必要なのではないかと思っています。ウェブページを作ることが、伝えることではないので、どうやってこのページが読まれるようアプローチしていくか。ターゲットに読まれるように動き、読んでもらって初めて伝えたことになると思うので。
あとは、組合員よりも外側、世の中に伝えるための活動については、そもそもできていない部分が大きいので、今後取り組んでいきたい領域です。現状ではメディアへのアプローチもなかなかできていません。取り組んでいる内容に見合う広報活動をしていくべきだとは思っているのですが、なかなか手をつけられていないのが現状です。こうした、より外に向けた発信について、またひとしずくさんに力を貸してもらいたい場面もあるのではないかなと思います。

ちば:
ぜひ、そんな時にはまた声をかけてくださいね。ひとしずくとしても、長年、環境問題や社会課題に向き合ってこられたパルシステムさんをお手伝いできたことは、大変意義深いことでした。生活協同組合さんとのお仕事は初めてだったので、その点でも貴重な機会でした。サステナビリティページをきっかけに、パルシステムさんが、日本における食と農のサステナビリティのリーダー的存在になり、業界を導いていってくださることを期待しています。今後も力になれたらと思っていますので、いつでもご相談ください。

撮影:ほりごめひろゆき 編集:ちばたかこ

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