CASE 32
一般社団法人マナティー研究所
(2018年4月6日~現在)
右も左も分からない状態から、
サポートを受けながら自走できるように。
今は毎日がとても楽しい
「マナティー」と聞いて、その姿や特徴を正確に思い浮かべることができるでしょうか?学生時代に水族館でマナティーを見て一目惚れし、研究者の道に進んだ菊池さんは、TBS『情熱大陸」にも出演した国内のマナティー研究の第一人者です。研究に熱心に取り組む中、絶滅危惧種であるマナティーをより多くの人に知ってもらうため、活動の幅を広げたいと考えていたタイミングで、ひとしずくにご相談をいただきました。一般社団法人マナティー研究所の設立や、ファンドレイジング企画、教材開発、助成事業への申請の後方支援を行いました。研究以外の活動にも活き活きと取り組まれている菊池さんに、活動を始めたきっかけやひとしずくと協働した感想についてお話しいただきました。
マナティー研究だけでなく、その成果を活かす活動がしたいと考えていた
ひとしずく担当 こくぼ ひろし(以下、こくぼ):
マナティーに関する研究以外の活動を広げていきたいとお考えのタイミングで当時WWFジャパンに勤務されていた山本亜沙美さんのご紹介で、ひとしずくにお声がけいただいたのが最初でした。そもそも、研究以外の活動の幅を広げたいと考えるようになったきっかけは何だったのでしょうか?
一般社団法人マナティー研究所 理事 菊池夢美さん(以下、菊池さん):
私が出会った海外の研究者たちの多くは、自分で会社やNGOを立ち上げて、マナティーの保全プロジェクトを企画したり、環境教育活動を行ったり、活動を多岐にわたり展開していました。研究者が、その成果を活かす活動をするのが私の周りでは一般的でした。
ところが、日本の私はどうかというと、やはり大学での研究がメインで、外の人たちに情報を届ける機会は講演会くらい。自分も研究をするだけにとどまらず、その成果を活かす活動をしたいと漠然と考えていました。
こくぼ:
研究成果を活かす活動の必要性を感じた出来事があったのでしょうか?
菊池さん:
マナティー研究所を立ち上げる前は、ブラジルで保護したマナティーの野生復帰プロジェクトに携わっていました。ある時、ブラジルのNGO団体と一緒に現地の環境教育に参加しました。そこで質問されたのは、既に論文に書かれていることばかりで。例えば、保護したマナティーを育てるためのミルクの成分。この内容は、すいぶん前に研究で発表されているのに、未だに現地の人まで情報が届いていないことに気づいたんです。
同時に、研究者が見ている世界の狭さも感じるようになりました。私たち研究者は、話が通じる者同士で情報のやり取りをしているから、マナティーに関して、世の中の人たちがどんな情報を必要としているのかも分からない。その状況に「あれ?」と違和感を覚えて。私のように絶滅危惧種に携わる人間が一番やらなければならないことは、論文を出すことだけではなく、その動物の保全につながる活動です。さらに、マナティー生息地の人たちは英語ネイティブではないために、英語の論文を読めないことが多いし、論文はお金を出さなければ読めません。「情報があるのに伝わらない」という状況を変え、現地の人たちがもっと情報を得ることができれば、現地の彼らも安心してマナティーの保全活動に取り組めるかもしれない、と思い始めました。
こくぼ:
その想いをどう形にしたらいいか悩んでいた時に、ひとしずくにお声がけいただいたのでしたね。山本さんとは、大学の同期だったんですよね。
菊池さん:
はい。ちょうど山本さんと連絡をとっていたら、広報のお仕事をしていると聞いて。私の周りは研究者ばかりだったので、そうでない方にも意見を聞いてみたいと思って相談しました。
やりたいことはあるけれど、何をしたらいいか分からない。そんな時に、ひとしずくがお手本になった
こくぼ:
「マナティー研究所」発足後は、私も監事を務めながら、日本財団「海と日本PROJECT」の助成事業申請のお手伝いをさせていただきました。
菊池さん:
それまでの私は、研究ばかりしていて社会のことを全く知らなかったんです。助成金のこともこくぼさんに教えていただいて。無事に採択いただけました。
こくぼ:
菊池さんの想いが伝わったのだと思います。日本では、研究者の方が活動を広げている例が少ない中で、菊池さんは先駆けとなって動いていらっしゃる。真の目的であるマナティーの保全に繋げるため、研究者の中では「あたりまえ」とされている情報をきちんと届ける、というミッションを持って活動されているのは本当に素晴らしいと思います。
菊池さん:
ありがとうございます。活動を続けていくうちに、研究者の中でもアウトリーチ活動に興味のある方との繋がりが増えていて嬉しいです。
こくぼ:
日本財団「海と日本PROJECT」採択事業として行った、子どもたちに向けたワークショップでは、難しいことを分かりやすく伝えることをとても意識されているように感じました。環境教育のVRコンテンツの制作においてもパートナーさんをご紹介させていただきましたが、ワークショップや環境教育の展開は、情報を必要な人に届けるための工夫だったのでしょうか。
菊池さん:
マナティーの名前や、希少動物であることについては、日本や海外でもある程度認知されるようになりました。その一方、保護が進まないのは、人間の意識の問題があるように思います。自分さえ良ければ良いという考えではなくて、みんなが一緒に生きていけるように相手を思いやり、自らの行動を変えていくことが必要です。
次世代の子どもたちに生き物や自然の魅力を伝えて、一緒に生きていきたい、大切にしたいという気持ちを持ってもらえたら、彼らが大人になった時の選択肢が増えて変わっていくのではないかと思っています。
こくぼ:
子どもたちにマナティーのことを伝える中で、手応えは感じていますか?
菊池さん:
そうですね。イベントでマナティーのグッズを売ったり、配りながらマナティーのことを伝えたり、活動をしていく中で売上をマナティー研究所に寄付してくれた子がいました。他にも、私たちが行ったワークショップでの学びを発展させて自由研究を行った子が、地区の賞を獲得していたこともあり、とても嬉しかったです。
あとは、子どもに向けたワークショップでも、保護者の方も子どもたちの隣で一緒になって熱心に話を聞いてくださって。アンケートでも保護者の方から、「自分の勉強にもなりました」という声をいただけた時は、本当にやって良かったと思いました。
あとは、マナティーのグッズをつくって、マナティー研究所に寄付してくださった方の返礼品としてお渡しするキャンペーンもこくぼさんが考えてくださいました。おかげさまで定期的に寄付してくださる方がいらっしゃって、今も続いています。
こくぼ:
可愛いマナティーのグッズを作りたい!という菊池さんの熱意やセンスもとても素敵だと感じ、思い至ったキャンペーンでした。
菊池さん:
グッズは私が欲しいと思うものをつくりました(笑)。
こくぼ:
素晴らしいと思います。菊池さんの場合、研究や活動と個人の想いが、分かれることなく重なり合っているなと思っていて。両者が合わさった時、ものすごいパワーが発揮されると僕も思っているので、菊池さんの活動にはとても共感しています。
ひとしずくがサポートに関わることで、良かったと思う点はありますか?
菊池さん:
やはり、「活動の幅を広げたいけれど、右も左も分からない」という時にご相談できて本当に良かったと思っています。組織形態について悩んでいた時に、こくぼさんに色々アドバイスいただきました。組織の名称についても、「奇をてらうことなく、皆さんに知ってもらうには『マナティー研究所』とした方がいいんじゃないか」と言っていただいて。最初の方向を示していただき、本当にありがとうございます。
こくぼ:
菊池さんとお話しする中で、物事を客観的に見て「自分がどう感じるか」ということを大切にされている姿勢を感じました。例えば、一つの仕事を成し遂げる過程で疑問やハッピーでない過程があれば、それにとことん向き合う姿勢。ひとしずくも常に、「自分に正直な会社になろう」と言っているので、菊池さんの考え方にとても共感します。
菊池さん:
本当にあの時相談できる方がいて良かったですし、私の方こそこくぼさんの受け答えや、お忙しいのにすぐ返信してくださるところなど、何気なく真似しています(笑)。
こくぼ:
私は返信が遅れることもあり、反省していますが、菊池さんこそメッセージの返信がめちゃくちゃ早いですよね。
菊池さん:
はい。こくぼさんのメッセージを見て、「こうすればいいんだ!」と学んでいます。あと、こくぼさんはいつも意志を持ってボーダーの服を着ていらっしゃるじゃないですか。私も取材を受ける時は、マナティーが生息する南米のデザイナーの服を着ることにしているんです。今日はグアテマラのデザイナーさんの服です。これもこくぼさんの真似です(笑)。
こくぼ:
そんな影響が!(笑)取り入れていただいていること、初めて知りました。恥ずかしいですが、とても嬉しいです。
菊池さん:
色々仕事で悩んでいた時に、周りにお手本にする存在がいなかったんです。初めてひとしずくのことを知った時、「ソーシャルグッドの後方支援」の会社と聞いて、高い意識を持っていらっしゃるなと、とても遠い存在に思えました。でも、実際にこくぼさんにお会いしたら、本当に穏やかで優しくて。できるだけ真似したいと思うようなお手本になる方だったので本当にありがたいです。
少しずつ自分たちで広報ができるように。今は毎日がとても楽しい
こくぼ:
ひとしずくが菊池さんとご一緒することで、何か変化はあったでしょうか?
菊池さん:
マナティーグッズのキャンペーンやVRを使った環境教育の実現など、私たちマナティー研究所のメンバーだけでは思いつかないようなアイデアをたくさんいただけたのは大きな変化でした。あとは、広報についてのノウハウが全くなかったので、こくぼさんに都度相談して、アドバイスいただきながら「これってこういうことなんだ!」と勉強させていただけたことですね。今では、自分たちで広報の文言を考えてホームページなどで発信できるようになりつつあります。まだまだ至らない部分もありますが。
こくぼ:
それは本当に素晴らしいです!僕たちもノウハウをお渡しして、最終的にパートナーの皆さんが自走できるようになることを理想としているので。
菊池さん:
はい、今は本当に楽しいです。研究だけやっていた頃は、息苦しい日々が続いて、漠然としたストレスを抱えていました。でも、今は活動の幅を広げて、環境教育をやったり、教材を作ったり、様々な広報に関する文章を読んで勉強したり。そういった一つ一つの取り組みが本当に楽しいです。久しぶりに会った人に「最近どう?」って聞かれたら、「すごく楽しい!」と言える状態。チャレンジして本当に良かったと思っています。
こくぼ:
今後、さらにチャレンジしたいことはありますか?
菊池さん:
今は、自分たち主催でイベントやワークショップをやっていますが、今後は水族館や博物館と一緒に何か活動ができたらと考えています。すでに関係人口の土台がある場所なので、そういったところに教材や情報を提供して、私たちの取り組みを活かせれば、と思っています。
今は、マナティーと同じカイギュウ類のジュゴンに関する教材も作っています。とても素敵なストーリーなんですよ。完成したら、またご相談させてください。いつもお話ししてますが、どうか見捨てないでくださいね!こくぼさんがいなくなったらお手本になる人がいなくなってしまうので(笑)。
こくぼ:
もちろんです!いつでも気軽にご相談ください。うちのチームで是非継続的にサポートさせてください。
※日本財団「海と日本PROJECT」
子どもたちを中心に海への関心や好奇心を喚起し、海の問題解決に向けたアクションの輪を広げることを目的に日本財団や政府の旗振りのもと、オールジャパンで推進するプロジェクトです。(https://uminohi.jp/)
撮影:ほりごめひろゆき 編集:つじはらまゆき
RECENT WORKS
社名 | ひとしずく株式会社 |
所在地 | 本社:〒231-0021 横浜市中区日本大通33番地 小田原支社:〒250-0004 神奈川県小田原市浜町3-1-40 |
電話 | 045 900 8611 |
FAX | 045 330 6853 |
メール | info@hitoshizuku.co.jp |
代表 | こくぼひろし |
設立 | 2016年3月 |
資本金 | 3,000,000円 |
事業内容 | 広報及びパブリックリレーションズ代理業 ソーシャルグッドプロジェクトの企画・制作・運営 |
顧問弁護士 | 丁絢奈(よこはま第一法律事務所) |
税務顧問 | 元小出 悟(会計事務所ユニークス) |
顧問社労士 | 社会保険労務士法人ワーク・イノベーション |