CASE 20

BSIグループジャパン株式会社

(2019年1月~2020年1月)

持続可能なイベントのための国際規格を国内で6社目に取得。
地球の未来を見据えて、今すべきアクションを可視化する

2020年1月17日、ひとしずくは、ISO 20121(イベントサステナビリティ・マネジメントシステム)を取得しました。2016年の創業当初から、ソーシャルグッドに特化したPRエージェンシーとして、環境や社会に配慮したイベントの企画及び後方支援に取り組んできたひとしずく。ISO 20121取得をした目的は、これまで社内で蓄積してきた知見を整理し、ISOというグローバルスタンダードに準拠しながら、サステナビリティに配慮したイベントを継続的に実施するためです。取得にあたり、数ある認証機関のなかからひとしずくが選んだのは、長い歴史と世界での実績があり、サステナビリティに詳しい審査員の方々がおられるイギリス・BSI(British Standards Institution:英国規格協会)の日本法人であるBSIグループジャパン株式会社。サポートいただいた楠本寛斎さんとともに、取得までの歩みを振り返りました。

イベントは、大切なメッセージを伝えるための場。サステナビリティに配慮したイベントを継続的に実施していくために、ISO 20121を取得

BSIグループジャパン株式会社 営業本部 楠本寛斎さん

ひとしずく担当 たかはしあすか(以下、たかはし):
今回、BSIジャパンさんのお力添えにより、弊社はISO 20121を国内で6社目に取得することができました。製品やサービスを始め、活動を管理するための仕組みに至るまで、世界中で同じ品質・レベルで提供できるように定められた国際規格であるISOは、さまざまな分野ごとに定められています。弊社が取得したISO 20121について、改めて教えていただけますか?

BSIグループジャパン株式会社 営業本部 楠本寛斎さん(以下、楠本さん):
ISO 20121(イベントサステナビリティ・マネジメントシステム)とは、イベントに携わる組織がイベント実施に伴う環境・経済・社会に及ぼす影響と課題を特定して自ら管理することで、持続可能なイベントへの取り組みをサポートすることを目的とした国際規格です。

2012年に、弊社が開発に関わったBS 8901という英国規格をベースに国際規格化されました。これには、2012年に開催されたロンドンオリンピック・パラリンピックをスクラップ&ビルドではない、史上最高の環境にやさしい大会にするため、イギリスが主導して規格の策定を進めたという背景があります。

それ以降のオリンピックやワールドカップを含めた国際的なイベントは、ISO 20121が採用され続けています。新型コロナウイルス感染拡大の影響により2021年に開催延期となった東京オリンピック・パラリンピックやドバイ国際博覧会も、ISO 20121を採用して行われる予定です。

日本ではまだ知名度が高くありませんが、世界中で用いられている規格で、特にヨーロッパでは重視されています。

たかはし:
ありがとうございます。ちなみに、ISO 20121は大規模なイベントだけではなく、小規模なイベントでも採用できる規格なのですよね?

楠本さん:
はい。ISO 20121の認証対象は、あらゆる種類のイベント及びイベントに関連する活動をしている組織となります。

さらに、この規格ではイベントの定義を「体験をつくりだし、メッセージを伝達するための時間・場として、関心を集めるために計画したもの」としています。つまり、イベントとはメッセージ性が高く、ISO 20121を取得することで、そのイベントや組織はサステナビリティに対して積極的に取り組んでいるという姿勢を示すことができるんです。

たとえば、オリンピックの歴史を振り返ってみると、1992年のバルセロナ夏季大会から「環境」がキーワードとなり、2010年のバンクーバー冬季大会から「持続可能性」について指摘され、2012年のロンドンオリンピックで明確に謳われています。

国際イベントであるオリンピックは今後何をメッセージとして発信していくのかという議論になったときに、地球規模で解決していくべき課題として「環境」というキーワードが挙げられ、そのために「持続可能性」を考えた結果、大会自体を環境に配慮した持続可能なイベントにしていこうという考えのもと、ISO 20121を採用するに至ったのです。

たかはし:
弊社がISO 20121の取得を目指したのは、代表のこくぼが、環境総合コンサルティング事業を展開するアオイ環境株式会社に当時いらした立石 郁さんに教えていただいたことがきっかけです。

我々はこれまでパートナーさんの後方支援や自主事業でイベントを開催する際、ゲストにお出しするコップやお皿は、使い捨てではないものやFSC®森林認証マークがついたエコ製品を選ぶなど、環境や多様性への配慮を意識して取り組んできました。回を重ねるうちに、メンバーの知見も蓄積されていたため、その棚卸しや共有をするためにISO 20121を取得することになりました。

私が社会人になってから通っていた大学院で、「NPOにとってのイベント実施がもつ意味」というテーマを学んでいたこともあり、「たかはしさんが中心になって進めたら?」とこくぼから指名を受けて、取得業務のチームリーダーになりました。

楠本さん:
そうだったんですね。たかはしさんはもともとイベント自体にも関心がおありだったのですね。

たかはし:
はい。PRにはさまざまな手法がありますが、リアルにコミュニケーションできる場づくりという意味では、企業や団体にとってイベントを開催することはメッセージを伝えやすいのではないかと考えています。個人的に関心があったことと合致し、イベントサステナビリティについてぜひ究めたいと思いました。

楠本さん:
実は、私自身は、BSIジャパンに入社した2013年当時、イベントサステナビリティについて知見があったわけではなく、ISO 20121の国内での認知度は今よりも低い状況でした。しかし、ISO 20121の普及を進めるなかで、「この規格はこれからの世の中が求められるものを形にしているのではないか?」と気づいたんです。

実際に、東京オリンピック・パラリンピックがISO 20121を採用することが決まった直後は、セミナーを開催したところ約100社から申込みがあったほど注目を浴びました。しかし、ISO 20121の取得は義務ではないため、実際に取得に至る会社はわずかで、セミナーの参加社も減っていってしまいました。

しかし、2018年ごろからまた風向きが変わり、問い合わせも徐々に増えてきました。イベントサステナビリティについて真摯に向き合ってきた企業の方々から、「これまで取り組んできたことを形にしたい」というご依頼を受けるようになり、ISO 20121の取得実績は増加中です。

たかはし:
残念ながら、ISO 20121の取得は、すぐに審査を受けて、すぐに結果が出るというものではなく、サステナビリティの取り組みの実現には時間がかかりますよね。

楠本さん:
そうですね。予算や時間、労力をかけて国際規格を取得するということは、企業にとってプライドの現れであると同時に、世界に向けたコミットメントだと思います。我々としても、ぜひそのような“本物の志”をもった企業に取得していただきたいですね。取得後、どのような形で事業に結びつけていくと効果的なのかということも含めて、サポートできればと考えています。

イベントサステナビリティに対する議論を重ねることで、目的意識が高まった。独自の「サステナビリティチャレンジリスト」も策定

たかはし:
ISO 20121を取得されているほかの企業は、プロサッカーチームを運営する大手スポーツクラブやイベント会社だと伺いました。弊社は社員が10名に満たない小さな会社です。取得についてこくぼからご相談をさせていただいた当初は、どのような印象をもたれましたか?

楠本さん:
こくぼさんと初めてお会いしたときは、「優しそうな方だな」というのが第一印象でした。ただ、お話をするうちに、確固たる信念があるということが伝わりましたね。

なかでもうれしかったのが、「ISO 20121は、ひとしずくとして絶対に取得しなければならないと思っています」という言葉。時流に乗りたいのではなく、以前からイベントサステナビリティに対する強い想いがあるということが伝わり、ぜひご協力したいという気持ちになりました。

たかはし:
ありがとうございます。ISO 20121認証取得に向けたプロセスやBSIジャパンさんのサポートがどのようなものか改めて教えていただけますか?

楠本さん:
取得までのプロセスとしては、いつまでに何をすべきかマイルストーンを明確に設定して、お客様の目的に応じてどこまでの範囲で取得するかをご相談しながら決めていきます。その後、契約を交わし、審査日程、審査当日までのご準備などをお伝えします。審査は、文書審査と現地審査があり、終了後、ISOを認証します。

ISO取得は、ゴールではありますが、スタートでもあります。どのように活用していくかは組織の課題であると同時に、サポートする我々の課題でもあります。

たかはし:
国際規格を取得したということは、弊社にとっても大きい実績です。ご一緒しているNGOは海外で事業を展開していますし、「我々もグローバルな基準を至る所で実践していく」という社内のモチベーションも上がったのではないかと感じています。

約半年にわたり、社内での研修や議論を重ね、ISO 20121の審査を迎えた

楠本さん:
それはよかったです。ISO取得のプロセスについては、「すごく大変なのではないか?」というお問い合わせをよくいただきますが、基準内であれば、企業規模や予算に合わせて組織が内容を決められます。その点については、いかがでしたか?

たかはし:
取得前と後では、まったくイメージが変わりました。「自分たちで話し合いながら決められる部分がこんなに多いんだ!」と驚いたのを覚えています。

楠本さん:
ISOを取得する過程では、「社内業務を改めて整理できた」「改善点がわかった」「会社や社員の長所に気づくことができた」というお声をいただくことが多いですね。

たかはし:
私自身もそのメリットを実感しました。自由度の高さに戸惑った部分もありましたが、社内でイベントサステナビリティに関する知見を共有し、議論を重ねて目的意識を高めるというプロセス自体が貴重な時間になったと思います。

ISO 20121取得をサポートしていただいたなかで、弊社ならではのオリジナリティを感じられた部分があれば、教えていただけますか?

楠本さん:
大手企業の場合は、取得に向けて専門の部署やチームを設立したり、人数や時間を捻出できない分、予算をかけてコンサルタントにまかせたりするケースもあります。

しかし、ひとしずくさんは少人数のために取得業務だけにマンパワーを割けなくても、メンバーの方々がうまく連携をとり、自分たちがやりたい仕組みを効率的に構築された点に独自性があると思います。

たかはし:
ありがとうございます。少人数だからこそ、PDCAサイクルを回しやすい面もあるかと思います。

弊社独自の取り組みとして工夫した点は、「マネジメント」という概念を規定のものに当てはめて管理することではなく、規定以上のアイディアを積極的に生み出すこととしてとらえた「サステナビリティチャレンジリスト」の策定でしょうか。PRエージェンシーである強みを活かし、コミュニケーション面での視点を多く取り入れたほか、メンバーそれぞれの得意分野を活かした独自のチェックリストを作成し、今後も更新を続ける仕組みを構築することができました。

たくさんの組織がISO 20121を取得し、イベントを実施することで、サステナビリティへの意識が高まり、社会課題の解決が推進される

最終審査を経て、授与いただいたISO認証証明書

たかはし:
ISO 20121取得企業に期待することを教えていただけますか?

楠本さん:
規格を活用することによって、当初の目的達成につなげていただくことです。たとえば、「社内の風通しがよくなり、従業員の会社に対する評価が向上した」「サービスの改善に対するスピードが早まり、顧客満足を得られた」など、ステークホルダーの満足度を上げ、最終的には利益を出していただけたらうれしいですね。

たかはし:
新型コロナウイルスの感染拡大により、社会情勢も激変しています。これからの社会におけるISO 20121の取得意義についてどのように思われますか?

楠本さん:
先程申し上げたように、組織にとってISO 20121を取得することは、社会に対するひとつのコミットメントであると思います。たくさんの組織が取得していくことで、社会においてサステナビリティへの意識が高まり、社会課題の解決が推進されるのではないでしょうか。

たかはし:
我々も、ISO 20121の取得によって、パートナーさんとともにサステナビリティを現実のものにしていくという想いが強まっていますね。イベントサステナビリティ・マネジメントシステムには、環境、経済、社会の三本柱がありますが、後方支援しているパートナーさんごとに、それぞれの得意分野がある反面、たりない視点もあるように感じています。パートナーさんのイベントをサポートするときに、ISO 20121に立ち返ることで、それぞれのレベルを標準化できるように活用していけたらと考えています。

楠本さん:
ステークホルダーの方々が想いを同じくするためのツールとして、ISO 20121が使われ、さまざまな気づきをもたらし、より大きなムーブメントを起こせたらいいですね。

たかはし:
現在(2020年6月取材時)、リアルイベントは開催しづらい状況ですが、オンラインイベントは増えてきています。オンラインだと環境負荷が少ないという利点もあるので、今後、積極的に取り組んでいく予定です。

楠本さん:
ISO 20121にもとづいたイベントを通じて、ひとしずくさんの想いをぜひ実現していただきたいと思います。

たかはし:
ありがとうございます。これからもどうぞよろしくお願いいたします。

撮影:ほりごめ ひろゆき

RECENT WORKS

社名ひとしずく株式会社
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代表こくぼひろし
設立2016年3月
資本金3,000,000円
事業内容広報及びパブリックリレーションズ代理業
ソーシャルグッドプロジェクトの企画・制作・運営
顧問弁護士丁絢奈(よこはま第一法律事務所)
税務顧問元小出 悟(会計事務所ユニークス)
顧問社労士社会保険労務士法人ワーク・イノベーション