CASE 14

大田原市役所 総合政策部政策推進課政策推進係

(2018年10月〜2019年3月)

「関係した人」をターゲットに次につながるPRを。
顔の見える小規模でのイベントが、市の求める方向性にマッチ

栃木県の北東部に位置し、人口約7万人を有する大田原市。江戸時代より受け継がれた城下町を礎に、栃木県北部の中心都市の役割を果たすこの町ですが、人口減少という課題に対し、2016年より町の魅力を発信する事業に着手。ひとしずくでは、今回のプロジェクトチームであるスターメッド株式会社、株式会社HITOMINAとともに、3年目となる2018年秋からサポートを行い、首都圏におけるイベントの実施やファクトブックの制作などに携わりました。大田原市役所総合政策部政策推進課政策推進係の伊藤良之さんにお話をうかがいました。

魅力発信に取り組んで3年目の大田原市を支援。認知の先をめざした結果、ターゲットはUターンに

大田原市役所 総合政策部 政策推進課 政策推進係 主幹 伊藤良之さん

ひとしずく担当 うしじまようこ(以下、うしじま):
今回ひとしずくでは、大田原市の魅力発信事業を支援させていただきました。大きなくくりで言いますと、移住定住促進のための事業ということになるかと思いますが、そもそも大田原市さんとしてはどういったところに課題感を抱いてこの施策を進めていらっしゃったのでしょうか。

大田原市役所 伊藤良之さん(以下、伊藤さん):
他の市町村でも同様の課題を持っていらっしゃると思うのですが、大きな背景としては人口減少、とくに若年層の人口減少がありました。大田原市というのは、少し奥に行くと那須塩原や日光があり、観光的な魅力としてはどうしても主張しにくい部分があります。そういったなかで、観光ではない町の魅力をどのように打ち出し、人口減少に歯止めをかけていくかということは長年の課題だったんです。本腰を入れて、大田原市魅力発信事業「大田笑市プロジェクト」として取り組みを始めたのは2016年からです。

1年目、2年目では他社さんにお願いをして動画を作り、動画再生回数はかなりの数を出すことができたので、認知拡大という意味でのPRとしてはとても成功したと思います。ただ、言い方を変えると一時の効果で、次につながらないということが課題として見えてきていました。

うしじま:
次につながる、ということは、認知されるだけではなくて、直接この町を訪れていただくということですとか、移住していただくですとか、そのようなアクションにつながるということですね。若い人たち、というキーワードは当初からうかがっていたのですが、とくにターゲットとして設定されていた層について改めて教えていただけますか?他の自治体さんでは、子育て層にぜひ移住してほしいと活動されているところも多いと思いますが、大田原市さんとしてはいかがだったのでしょうか。

伊藤さん:
もちろん子育て世代が移り住んでくれたらありがたいとは思っていますが、今はどこの地域も移住定住促進をしているなかで、取り合いになってしまうような状況なのであまり考えてはいませんでした。

私たちとしては「Uターン」に特化してターゲットを設定していこう、というのはありました。大田原市ともとから関係のあった人、大田原出身の人や一時期仕事で住んでいたことがある人、その周辺の人…というイメージです。現在市に住んでいる高校生や、今は東京などに住んでいる市出身の大学生などにもう一度大田原市のことを知ってほしい、という思いもあります。長い目で見た時に、帰ってきてもらうための布石になったらと。現状では、やはり東京が近いということもあり、大田原市に生まれた子どもの7〜8割が市外に出ていっているという状況です。ずっとここで育ってきたからこそ気づいていない大田原市の魅力を知ってもらうことで、一度出ていっても、またいつか帰ってきたいと思う子どもたちを増やしたいという気持ちが根底にありますね。

うしじま:
Uターンに特化するという設定をされるに至った、何かきっかけがあったのでしょうか。

伊藤さん:
正直なところ、あまり大田原市が有名じゃない、ということはありますね(笑)。1〜2年目の認知拡大のPRは一時的には成功しましたが、アクションまでつなぐ次の段階までを描くとなると、非常に遠くて難しい。となると、もともとこの町を知っている人に向けて施策を行ったほうが効果的なんじゃないかと考えたわけです。

日本酒とコーヒーという身近な切り口でイベントを開催。顔の見えるイベントで、町の魅力を伝える

横浜で2018年12月12日に開催したイベント『日本酒が繋ぐ 街と自然とヒトの在り方』の様子。イベント終了後、大田原の日本酒と特産品を囲んで参加者との交流会を行った

東京・外苑前で2019年1月26日に開催したイベント『珈琲で笑顔を届けるまち〜OHTAWARA COFFEEの魅力〜』の様子

うしじま:
1、2年目を経ての3年目で、次につなぐことを課題とされていたからこそのターゲット設定だったんですね。私たちひとしずくは、その3年目からお仕事をご一緒させていただいたのですが、私たちの提案のどんな点に興味、期待を持って採用していただいたのでしょうか。

伊藤さん:
今回ひとしずくさんには、市民ライター講座、首都圏でのイベント開催、大田原市の魅力コンテンツブック制作の3点に関わっていただいたのですが、私たちとしては、とくに東京圏でのイベントについて、どんな内容でどうやって人を集めるのだろう?と興味を持っていました。

というのも、今まで大田原市単独で、イベントを開催した経験はまったくなかったんです。県主催の移住フェアに参加するといったことはありましたが、企画から会場手配まですべて含めて単独で行うのは初めての試みでした。

うしじま:
今回は、今町の中で盛り上がっているものをヒアリングさせていただいた結果、「日本酒」と「コーヒー」というテーマでトークイベントを提案させていただきました。まず2018年12月12日に横浜で『日本酒が繋ぐ 街と自然とヒトの在り方』と題し、大田原市の酒造・天鷹酒造の尾崎さんと地域おこし協力隊の2人をゲストに日本酒の飲み比べも盛り込んだトークイベントを、2019年1月26日には、東京の外苑前で『珈琲で笑顔を届けるまち〜OHTAWARA COFFEEの魅力〜』として大田原でカフェや珈琲屋を営む住民と市民ライターの方に来ていただいて、コーヒーをいただきながらのイベントを実施し、それぞれ30名、20名の方に来場いただきました。

大田原市として単独のイベント自体初めてだったということですが、こういったテーマ設定をしてのイベントももちろん初めてということですよね。この2回のイベントをどのように評価していらっしゃいますか?

伊藤さん:
市として、お酒とコーヒーを打ち出していこう!というようなことはほとんど考えてはいませんでした。でも事実として、理由はわかりませんが、ここ数年で大田原市内になぜか自家焙煎のコーヒー豆を売る店が増えています。日本酒についても、天鷹酒造さんをはじめ、6つの酒造さんがずっとこの町でがんばっていらっしゃるということはあったんです。

ただ、参加費1,000円で、本当に来てくださる方がいらっしゃるのかなと、ちょっと不安には思っていました。

私たちも、最初から「大田原市に移住しよう」というメッセージを全面に出してイベントをおこなっても誰も来ないだろうと思っていたので、お酒やコーヒーというアプローチの仕方は素直にいいな、と思いました。コーヒーや日本酒を切り口に、そこに興味のある人に来ていただいて、最後にそんなコーヒーや日本酒が飲める大田原市という印象を持ってもらえたら、町の魅力として伝わるのではないかと。

2回のイベントは、結果として期待通りでした。今まで参加してきた大きなイベントとはまったく違うアットホームな雰囲気で、終わったあとにも参加者の方々とおしゃべりできて楽しかったですし。イベントというと、講師がしゃべって一方通行で終わる、そんなイメージがあったのですが、あんな風に来てくださった方一人ひとりの顔が見えて、直接話せるのはいいなと。あれくらいの規模でやるのは、今後もありだなと思えました。今までなかった手法、視点を獲得できたので、今回実施した施策のなかでも大きな成果だったと感じています。

名刺交換をして今もつながっている参加者の方もいますし、あのイベントで知り合うまで存じ上げなかったのですが、大田原市で定期的に音楽のコンサートを開催されている方がいらっしゃっていて、以来そのコンサートのご案内をいただくようになるなど、イベントをきっかけに継続的な関係性が生まれました。あの規模感でしっかりと顔を付き合わせることができたからだなと思います。

うしじま:
今もおつきあいが続く方がいらっしゃるのですね、うれしいです。参加者の層については、いかがですか?ターゲットとしていた若年層、10〜20代ではなく、実際の来場者は30-40代の方が中心でしたが……。

伊藤さん:
このイベントに関しては、来場者が若年層ではなかったから駄目だった、とは考えていません。日本酒、コーヒーというキーワードから考えても、ある程度落ち着いた方々が来てくださるだろうなとは思っていましたので。それでも、横浜のイベントには地域の取り組みに興味があるという20代の学生さんも来てくださっていましたし、工夫すればもっと若年層の集客も可能なのかもしれませんね。

市民同士の横のつながりが生まれる場となったライター講座

市民ライター講座でのワークショップの様子。市民である参加者が、大田原市の魅力をチームごとに発表

うしじま:
市民ライター講座についてはいかがでしたか?講師、講座の内容については、1~2年目の取り組みからの継続で「スターメッド株式会社」さんが行い、ひとしずくは事務局として関わらせていただきました。3年目ということで、意識されていた改善ポイントなどはあったのでしょうか。

伊藤さん:
この施策については、どちらかと言うと継続のイメージでした。前年よりも今年は参加者が少し少なかったのですが、少人数だったことで、盛り上がって楽しそうに活動してもらえたように思います。講座を1回のみにせず、11、12、1月と短期間に3回行ったことも、みなさんが打ち解ける要因になったのかもしれませんね。

市民ライター講座を受講した方々には「大田原市 笑顔の魅力サイト」という市の運営するサイトで記事を発信していただいていますが、継続してくださる方と発信をやめてしまう方とがいるのは、ある程度は仕方がないと思っています。1割くらいの方が継続してくださったら十分ではないかと。でも、市民ライターのみなさんが発信する記事は、やはり私たちの視点とは全然違っていておもしろいので、一度離れてしまった方にもまた戻ってきていただけたらと思うのですが。

うしじま:
3年目からの試みとして、講座のフォローアップとライター同士のつながりを作ることを目的に、フェイスブックグループを立ち上げ、ひとしずくの方で運営をさせていただきました。残念ながら、市民ライターの方々だけでの自立したコミュニティに発展するまでには至りませんでしたが、次のステップに進んでいただくための講座を開催する際や、一度離れた方に呼びかける際などには利用していただけるのではないかと思います。

伊藤さん:
そうですね、作っていただいたフェイスブックグループについては、今後活用を考えていけたらと思います。

「コンテンツブックは地元高校生に配布予定です」

伊藤さんと、ひとしずく担当のうしじま

うしじま:
もう一点の施策として「魅力コンテンツブック」の制作も行いました。こちらについては、その後活用いただけているでしょうか。

伊藤さん:
これからの話になりますが、大田原市内の高校生に配りたいなと思っているんです。最初にお話したように、今この町に住んでいる高校生たちに、じつはこんな魅力がある地域なんだよ、ということを伝えておきたい。そのためのツールとして、作っていただいたコンテンツブックはすごく有効なんじゃないかと感じています。

うしじま:
例えば子育ての支援が充実している、というようなことは自分がその境遇になって調べて始めてわかることですものね。高校生の時にコンテンツブックで網羅的に情報を知っていれば、いざその境遇になった時に、地元は子育てしやすい環境だったな、ときっと思い出すのではないかと思います。

伊藤さん:
はい、まさにそのような効果があればいいなと思っています。今まで、観光スポットや食事処の案内パンフレットなどは作っていましたが、コンテンツブックはそういったものとはまったく違う役割のものだなと、でき上がってから思いました。大田原市のいろいろな側面がひとまとめになっているので、全体を見渡せるんですね。まだ活用してきれていない状況ではありますが、取材に来たメディアの方や他地域の行政関係のお客様にお見せするにも非常によい基礎資料になったと感じています。

少人数でのイベントが、大田原市のめざす方向性とマッチ。「今後の方向性が見えたと感じています」

横浜のイベントで。参加者も主催者も笑顔が溢れた

うしじま:
半年間に渡りお仕事をさせていただきましたが、振り返ってみて、ひとしずくといっしょに施策を行って、よかった点や逆にやりにくかった点などもありましたらぜひ参考に教えていただきたいのですが、いかがでしたか。

伊藤さん:
マイナスな点はとくに感じておらず、単純に、おもしろかったですよね。とくにイベントは私たちも楽しませていただきました。来場者の方も楽しそうにしてくださっていましたし、それでさらに主催側も楽しかったので大成功なんじゃないかなと。繰り返しになりますが、大きなイベントじゃなくてもいいんだ、というのは大きな気づきでした。地道に、少人数の方に濃く大田原市を知ってもらえたら、そのほうがよいのではないかと思いました。

どうしても行政の視点ですと、イベントをするなら入場者数1000人めざして……とそんな数を目標にしてしまうところがあって。誰にでもわかりやすい指標を求めてしまうところがあったので、小規模でちゃんと伝える、という形を経験できたのは大きな一歩だったと思います。

20〜30名規模と聞いて正直なところ、最初は少ないなという印象はありました。会場も、なんとなく会議室で行うイメージだったので、当日実際に会場について、とてもおしゃれで驚きました。なるほどこういうところでやるのがいいのか、と。私たちでは絶対に見つけられなかった場所ですし、経験したことで、今後の選択肢のひとつになったのは大きいですよね。

今回の経験によって、市役所内でも、量より質を重視した、少人数でのイベントやコミュニケーションの価値が伝わったように思います。大田原市のめざす方向性と合っているなと私自身感じているので、今後も小さな規模での施策を練っていきたいと思います。

うしじま:
ひとしずくとの仕事が、大田原市さんの今後にも役立ちましたら私たちも嬉しく思います。今後も何かありましたらぜひ、お声がけくださいね。ありがとうございました。

うしじま、伊藤さん、今年度からのご担当者 印南さん

 
撮影:柳井隆宏 編集:ちばたかこ

RECENT WORKS

社名ひとしずく株式会社
所在地本社:〒231-0003 横浜市中区北仲通3-33
大磯オフィス:神奈川県中郡大磯町大磯636-1
電話045 900 8611
FAX045 330 6853
メールinfo@hitoshizuku.co.jp
代表こくぼひろし
設立2016年3月
資本金3,000,000円
事業内容広報及びパブリックリレーションズ代理業
ソーシャルグッドプロジェクトの企画・制作・運営
顧問弁護士丁絢奈(よこはま第一法律事務所)
税務顧問元小出 悟(会計事務所ユニークス)
顧問社労士社会保険労務士法人ワーク・イノベーション