CASE 09

株式会社たき工房

(2018年6月)

社会課題への興味の入り口をアートでひらく

株式会社たき工房は、新聞・雑誌・ポスターなどの広告制作から企業・商品ブランディングの企画立案まで、幅広く“人の思いをカタチにする“提案を行うデザインエージェンシーです。たき工房のクリエイティブディレクター・藤井賢二さんより、ひとしずく株式会社の自主プロジェクト「chart project」にお声がけをいただいたのが2018年3月のこと。たき工房が参加するアート&音楽イベント「MISIAの里山ミュージアム2018」の企画のひとつとして「chart project」をやってみてはというお誘いをいただきました。なぜchart projectにお声がけいただいたのか、またchart projectの作品を制作するアーティスト(chartist)として、藤井さんご自身が作品に込めた想いをうかがいました。

「たくさんの人に伝えたい大事なことだけど、関心を持たれにくい難しい話。chart project®はその障壁を越えられると思いました」

株式会社たき工房 クリエイティブディレクター 藤井賢二さん

ひとしずく担当者 うしじま(以下、うしじま):
このたびは、弊社のchart projectにお声がけをいただきありがとうございました。chart projectは、社会課題を表すデータのグラフの線を用い、その課題が解決されたイメージをアート作品にするプロジェクトです。ネガティブな印象があり、あまり今までは直視したくなかった社会課題やそのデータを、ポジティブに届けようとしています。観る、触れる、飾る、持ち歩く、着る、シェアするなど、ただの平面作品に止まらない展開も行なっています。

ただ、当時はまだほとんどchart projectとしての実績はほとんどなかったと思うのですが、どんなところに興味を持ってお誘いくださったのでしょうか?

株式会社 たき工房 クリエイティブディレクター 藤井賢二さん(以下、藤井さん):
chart projectは、「こういうプロジェクトを立ち上げようと思っている」という話をこくぼさんに聞いたときから興味を持っていました。環境問題や社会課題は多くの人にとって難しいと感じる話題であり、それを語る場も楽しいものにはなかなかなりません。そうすると、結果的にそういった課題に本当に関心のある人しか関わらないという状況になっていきますよね。

調査機関や行政から調査や統計データが発表されても、みんな課題自体は大事なことだと頭ではわかっているけれど、なかなか関心が持てない。その障壁を低くするchart projectはすごくおもしろいなと思ったし、とても大事なアイディアだとも思いました。

うしじま:
そうだったんですね。最初にこくぼから話があったのはいつぐらいだったのですか?

藤井さん:
お話自体は、お声がけした1年ぐらい前ですかね。

うしじま:
その間も覚えていていただいたんですね!

藤井さん:
あぁ、それはもちろん。何かチャンスがあれば、という感じではずっと思っていました。

うしじま:
たき工房さんには社会貢献活動を行うプロジェクトチームがあるんですよね。今回chart projectが参加したのもプロジェクトの一環とのことですが、そのプロジェクトについても簡単に教えていただけますか?

藤井さん:
私たちたき工房は、デザイン業務を主体に主に広告制作を行っているデザインエージェンシーです。その中で、「デザインでできる社会貢献」を自分たちで考えてやってみよう、ということで立ち上がったのが、「TAKI SMILE DESIGN LABO(以下、スマイルデザインラボ)」というプロジェクトチームになります。

5・6年前、当時の社長が旗振り役となって始まりました。社内公募があり、僕もぜひやりたいと手を挙げ、そこからずっと参加しています。

うしじま:
「デザインでできる社会貢献」というコンセプトは、「社会課題×アート」を切り口とするchart projectに非常に近いですよね。スマイルデザインラボの活動をしてきたなかで、デザインという切り口だからできた社会課題解決ってありましたか?

藤井さん:
そこはいつも悩ましいところなんですよね。実感しているのは、当初の僕らがデザインでどうこうしようと思っていたのはだいぶ表面的な話でしかなくて、進めていくとそんなに簡単に社会貢献や社会課題解決はできない、ということです。当たり前の話なんですけど。普段の仕事のように、訴求ポイントを決めて、制作物としてつくって、認知の拡大を図って…というような頭ではうまくいかないんです。簡単に答えが出るものではないですし、どこまでやればいいんだろうとか、これをやった意味はあるのだろうかとか、すごくそこを考えちゃったりするんですよね。

ただひとつ言えるかなというのは、デザインの力によって、より多様な人たちに見てもらえる・知ってもらえる機会をつくることはできるということ。スマイルデザインラボを通じてさまざまな活動をされている方とお話をする機会があるのですが、みなさん苦労されているのが、伝え方であるとか、見せ方というところなんですよね。僕らはビジュアルや動画を作ってプレゼンテーションをすることは専門分野なので、活動内容や想いをたくさんの人たちに見てもらえるカタチにするという点では、力になれると思っています。

「これはなんだろう?」と考えるところから始まる、「興味」を生み出す仕掛け

「MISIAの里山ミュージアム2018」にて展示した「石川県の林業就業者の推移」のグラフの線を使って描いたchart作品。本作品を含め5種類のグラフで制作された5枚のchart作品を森の中に展示した。

ワークショップの様子。グラフの線だけが描かれたワークシートに「明るい未来」のイメージを描く。

うしじま:
今回は、スマイルデザインラボとchart projectのコラボレーションという形で、2018年6月9日に石川県森林公園で開催された「MISIAの里山ミュージアム2018」に参加しました。期間中、藤井さんに描いていただいた環境に関する5つのグラフを用いたchart作品の展示と、来場者の方々に実際にそのグラフで絵を描いてもらうワークショップの2つの企画を行いましたよね。

森を美術館に見立て作品を展示するという案を藤井さんからいただいたとき、私たちも見えていなかったプロジェクトの可能性に気づかせていただきました。chart projectは、「社会課題を表すデータのグラフの線を用い、その課題が解決されたイメージをアートにする」という作品を創るためのプラットフォームであり、どのように作品を創るか、その作品をどのように展開させるかというところは作り手の方によって自由に広げられるんだなと。

藤井さん:
「MISIAの里山ミュージアム」は、‟自然を感じてアートと音楽を楽しもう“ということをコンセプトに掲げています。自然や環境問題などを考えるとき、まずは現場に足を運ぶことはすごく大事だと思っているので、僕らとしても、森の中だからこそできることをやりたいと思ってきました。

とはいえ、ついつい環境問題の概要が書かれたパネルが森のなかに貼ってあるだけであったり、写真に「こういう問題が起こっている」という文章が添えられているというものになったりしがちなのですが、そういうものには、なかなか子どもたちは興味を持ちにくいですよね。そこを打開していくアイディアとして、森の中でふと作品を目にしてこれはなんだろう?と考えるところから始まるのはおもしろいな、と思ったんですね。そして、それってchart projectの文脈にすごくピッタリだったので、今回のお声がけにつながりました。

うしじま:
「これはなんだろう?」と考えてもらうことは、chart projectが大事にしているところです。今回、グラフの線だけのシートに絵を描いてもらうワークショップを行うなかで、参加者に元のグラフを見せて、グラフの意味と同じ線で描かれた作品が森の中にも飾られていることを伝えると反響がとても大きかったんです。

「あぁ~!!あれは、こういうことだったんですね!なんだろうと思いながら見てました。帰りにまた見ていきます!」というお声をいくつもいただきました。何かはわからなくても気に留まっていて、それが何かわかったときに「あぁ!!」と頭の中で繋がることで、「ちゃんと見てみよう」という心の動きを作ることができると実感しました。

chart projectは、アーティスト自身にこそ大きな変化をもたらす

石川県の部門別削減目標に対する温室効果ガス排出量増減率を示すグラフ。この解説シートは「MISIAの里山ミュージアム」ワークショップで実際に配布したもの

上記グラフを用いて藤井さんが制作したCHART。温室効果ガスの削減を表す下向きのグラフでは木の根が育ち新芽が出て動物が集まる。一方、増加を表す上向きのグラフでは木が枯れている

うしじま:
chart projectによって、社会課題を伝えるための障壁を下げられるのでは、と期待をもってコラボレーションにお誘いいただいたわけですが、振り返ってみて、結果はどうでしたか? 今後、もっとこうしたらよかったという改善点はありましたか?

藤井さん:
僕自身のことになりますが、今回作品づくりをする中で、グラフとその背景にある課題について想定していた以上に深く考えることになったことはおもしろい発見でした。最初は、このグラフに沿って色を塗ればいいとか、写真のコラージュにしようかとか、グラフの内容がざっくりとビジュアルで表現されていればいいんだよね、と軽く思って始めたのですが、いざ作り始めると、このグラフが言わんとしていることをこのビジュアルでちゃんと表現できているんだろうか、と立ち止まってかなり考えることになりました。

うしじま:
同じようなことをほかのアーティストさんも言われていました!作品を創る側の方たちにグラフが表す課題への意識が芽生えるという点も、このプロジェクトのひとつの大事なポイントですね。chart作品を創ることで気持ちや視点が変わって、アーティストの方の行動が自然と変わっていく、ひとつのきっかけになるんじゃないかと思います。

自分の作品が、自分の知らないところで誰かの役に立てることがうれしい

うしじま:
「MISIAの里山ミュージアム」以外でも、藤井さんにはchartistとして活動していただいていますよね。今までに制作いただいた作品は5作品。大阪や東京での展覧会など、さまざまなところで展示させていただいています。どういった気持ちでご参加いただいているのか、また今までchartistとしてきての感想などお聞かせいただけますか?

藤井さん:
自分の創ったものが、展示する価値あるものと考えていただいて、いろいろな方の目に触れていただけているのはすごくありがたいなと思っています。自分の生んだ子がお役に立っている、みたいな感覚と言いますか。

たぶん、作家やクリエイターって、「自分が創った作品は自己満足ではなく、誰かの何かの役に立つし、誰かは喜んでくれる」と信じていないとやっていけない人たちなんですが、chart projectに関しては、描いた時点でその一定の目標はクリアできるというか、完成させた時点ですでに役に立つという前提があるので、“単に自分が好きで好きなことを描いている。”みたいな葛藤はだいぶないわけなんです。そういう意味では気持ちの面で取り組みやすいと思います。描く意義が始めからあるので。

うしじま:
藤井さんにそのように思っていただけるのはとてもありがたいです。「伝えたい」想いを持って活動している方たちと、それを「伝える力」を持つアーティストのみなさん、そしてそれを「受け取る」方々をつなぐプロジェクトとして、スウェーデンでの展示を皮切りに、2019年以降も国内外でchart projectを広めていきたいと思います。

藤井さんと、ひとしずくの担当うしじま

 
撮影:疋田千里 編集:ちばたかこ

RECENT WORKS

社名ひとしずく株式会社
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代表こくぼひろし
設立2016年3月
資本金3,000,000円
事業内容広報及びパブリックリレーションズ代理業
ソーシャルグッドプロジェクトの企画・制作・運営
顧問弁護士丁絢奈(よこはま第一法律事務所)
税務顧問元小出 悟(会計事務所ユニークス)
顧問社労士社会保険労務士法人ワーク・イノベーション