INTERVIEW
地球環境問題に関する、調査・研究や政策提言を行う「一般財団法人 地球・人間環境フォーラム(以下、GEF)」 。近年、特に注目される「再生可能エネルギー固定価格買取制度」(FIT制度)と「輸入木質バイオマス発電」における課題や持続可能性について正しい理解を促すべく、最新動向やデータを情報発信し続けています。ひとしずく株式会社はそれら専門的な広報活動に伴走するとともに、ロジックモデルの策定や発信基盤となるプラットフォームの構築など、限られたリソースで最大の効果を目指せる広報体制づくりを支援しました。今回は、本プロジェクトの当初から振り返りながら、ひとしずくとの共創のなかで得られた気づきや変化についてお話を伺いました。
事業活動と広報活動の両立へのチャレンジ 共に動けるパートナーを探して
ひとしずく担当 やまもとあさみ(以下、やまもと):
2024年2月から約一年9か月にわたって広報の取り組みに伴走支援させていただきました。まずはご依頼の背景にあった初期の課題についてお聞かせいただけますか。
GEF 木質バイオマス問題担当 鈴嶋克太さん(以下、鈴嶋さん):
内部組織の課題としてあったのは、広報リソースの不足です。私ともう一人で「木質バイオマス問題」に関する調査やセミナー運営、政策提言に普及啓発と、あらゆる業務を担当するなか、十分な広報活動ができずにいました。たとえば、メディアを対象としたセミナーやイベントを実施する際も、これまでにつきあいのある方々にご案内のメールを送る程度でしたし、来場された方へのメディアブリーフィングや事後フォローもできていなければ、どういった方がウェビナーに参加されているかも把握できていない。結果、バイオマス発電に関するメディア掲載や記事化にもつながらない、という行き詰まった状態でした。GEFの場合、広報のゴールはメディアに掲載されることではなく、行政や企業・団体、研究者など、政策決定におけるあらゆるステークホルダーに“正しい情報”を発信し、理解してもらうことで変化を生み出すことにあります。その大切な起点となる広報機能の強化が積年の課題だったんです。
非営利組織に求められる広報のかたちとは
やまもと:
一口に広報と言っても業務は多岐にわたりますし、本格的に推進していくとなるとどうしても専任者が必要になってきます。GEFの主体である事業に取り組まれているお二方が担える範囲も物理的に限られるなか、私たちひとしずくがパートナーとして伴走することで広報環境を整備し、より戦略的に進めるお手伝いができたのかなと思っています。 そもそもそういった課題をお持ちだったなかで、弊社を選定し、お声がけをいただいた経緯を伺えますでしょうか。
鈴嶋さん:
助成財団からのご提案がきっかけです。当時、日本の窓口をされていた方から、GEFとしてPR面を強化した方がよいとの提案とあわせて助成金枠について示唆いただけたことが大きかったですね。いくら人材不足だといっても広報専任者の雇用にかけられる予算は限られますし、無事に助成金を受けられたことでようやく一歩を踏み出すことができました。委託先の選定に関しても、助成団体の担当者からの紹介です。環境・ソーシャル系に強いPR会社として、ひとしずくさんを紹介してもらいました。何をやってもらえるのか、どんな会社がよいのかわからないなか、信頼できる先からの紹介はとても心強く、そのまま決め手となりました。
本格的な広報活動の第一歩 現状課題と目指すゴールをロジックモデルで明確に
やまもと:
実際にひとしずくメンバーのわかなが中心となり、伴走支援が始まって、最初にロジックモデルをアンドパブリック株式会社とともに策定していきました。長期的に何を、どう変えていくのか。達成すべき目標や目指すべき成果などを整理しながら、全体的なアウトプット計画について示した設計図のようなものです。
鈴嶋さん:
そうでしたね。それまではセミナーやイベントを実施しても、終われば次の計画が始まりと、効果測定や事後のフォローアップがまったくできていませんでした。いろいろなタスクを抱えるなか、考える余裕すらなかったというのが正直なところです。ひとしずくさんにロジックモデルとして全体像を可視化していただき、広報活動だけではなく、本分の事業活動における目的や計画などとも併せて整理できたことで、それぞれの優先順位や連携について検証できたり、次に何をすべきか戦略を練ってスケジュールを立てたりすることができました。「やるべき」とわかっていながら着手できていなかったことの反省を含め、自分たちの活動について整理し、今後やるべきことを明確に可視化できたことは大きかったです。ただ優先順位が決まっても、実際はなかなか計画どおりに動けずにいたという反省点も多いのですが……
やまもと:
すでに100%の状態で事業活動に向き合われているなか、そこにアドオンするかたちでさらに広報活動といってもすぐに対応するのは難しいですよね。けれど、そうした見直しや次なる課題としての意識こそがロジックモデル策定の意義でもありますし、今後の活動につながっていくと信じています。
鈴嶋さん:
あと、ひとしずくさんのサポートで強く印象に残っているのが、プロジェクトが始まって間もないころ、カナダから二人の著名な森林生態学者を招聘し、都内でメディア向けの記者会見を実施したときのことです。ふくもとさんをはじめ、メディア誘致にご尽力いただけたことで、バイオマス発電のキャンペーンではかつてないほどの参加者数を誇りました。また、社会的にアテンションを集めるキーパーソンの来日というまたとないPRチャンスを生かして、個別インタビューや三重県・尾鷲市への事前視察取材についてもアプローチし、丁寧にメディアブリーフィングいただいた結果、カナダの原生林伐採と日本の木質バイオマス発電について深掘りした記事が6件も掲載されるなど、やはりプロの業といいますか、大きな成果を実感しました。ご参加いただいたメディアの方々と現場や事後フォローを通して、リレーションを構築できました。
その後は、メディアキャラバンも月一件ペースで実施できていて、FIT制度の課題やGEFの活動を紹介するとともに、記者や編集委員、熟練ライターの皆さんがどのようなことに関心を持っているのか、関心はあっても記事化できない理由や背景などが見えてきました。キャラバンを繰り返すなかで、あまりうまく伝わっていない情報やわかりづらそうな表現などもヒアリングできて、ひとしずくさんに制作支援いただいたWEBサイト「バイオマス発電info」の用語集やコラムページのテーマ設計時に大いに参考になりました。また、きちんとしたWEBサイトがあるということ自体がNGOとしての信頼度向上につながるのだということも、メディアをはじめステークホルダーとの対話のなかで痛感しました。活動の中身や専門性、提言活動などの本質部分を言語化して伝えることはもちろんですが、たとえば誤字脱字や表記ゆれがないなど、情報の洗練度などの表面的に表れる信頼性も大切であることにも気づけました。
やまもと:
また、それら丁寧な広報活動の成果として2025年2月、輸入木質バイオマス発電の新規認定がFIT制度の対象外となるなど、本プロジェクトにおける最大のゴールを一部でも達成できたことは何より大きな前進ですよね。
メディアとのコミュニケーションを重ね、GEFらしい広報を追求する
やまもと:
「バイオマス発電info」は、メインターゲットであるメディア関係者に、複雑で専門的な問題である輸入木質バイオマス発電の課題をいかにわかりやすくまとめて伝えるか、これからどう育てていくかが肝になります。今後もメディアヒアリングやステークホルダーとの対話を通してたくさんアドバイスをいただきながら更新し続けることで、より一層充実した情報サイトになっていくと思われます。信頼度の形成についてもおっしゃるとおりで、情報が整理されているかどうか、読みやすさや見た目の洗練度で印象が左右したり、記名記事や掲載メディアが検索してヒットすることや定期的に更新されることが信用につながったり。WEBサイトに限らず、必要なポイントを押さえて優先順位をつけながら最大効率化を図るというのは、業務量が多いなか、GEFさんのお二人で広報活動を行っていくうえで大きな要素になります。
鈴嶋さん:
伴走支援が始まった当初はPR会社がどういうものなのか、何をしてくれるのかわからないなかで依頼していて、ひとしずくさんにどこまで期待していいかも正直わかっていませんでした。ですが、先に話したカナダの森林学者の来日時には事業本体の活動で多忙を極め、自分たちだけでは広報にまでとても手が回らなかったなか、案内状の作成や招待状の送付など、丁寧な支援をいただき驚かされました。また、バイオマス発電の抱える問題や課題は本当に複雑で、理解するのもかなり大変だっただろうなか、ひとしずくの皆さんはしっかり勉強して臨んでくださいましたし、さらにはPR面のアドバイスまでいただけること。ただ単にメディアへのアポ取りやPR活動の表面的なサポートだけではなく、現状何が問題でどう解決すべきかを深く理解してくださったうえでサポートしてもらえたというのは、ある意味嬉しい裏切りでした。
やまもと:
そこを成果として受け取っていただけるのは、私たちひとしずくとして何よりの励みになります。実際、GEFさんの課題に対してどのような支援ができるのか、チーム内で徹底的に検証しましたし、こくぼをはじめ、非営利団体の現場にはそれぞれ知見があったことで、NGOにメディアやステークホルダーが求めることや必要な情報をどう発信し、どう伝えていくかについては細かくご案内できたかと存じます。一緒に動くなかで、広報活動に関して何らかの意識変化が生まれていたなら光栄です。ひとしずくのサポートは一旦終了となり、GEFさんとしてはまだまだ不十分だった点も多いかと思われます。ただ、そうしたなかでもロジックモデルの策定によって広報体制の基盤づくりはもちろん、あらゆるステークホルダーとの関係性を可視化して適宜巻き込み、連携しながら事業活動からアウトプット、アウトカムとプロセスを経た先に、今回のような社会的インパクトを生み出すことができました。もちろん目に見える結果に限らず、GEFらしい広報のかたちを整えていかれたり、今後の事業活動のなかで広報視点を活用いただけたりしたなら嬉しいかぎりです。
鈴嶋さん:
ご提案いただけたすべてのことを実現できたわけではないですが、ひとしずくさんにご支援いただいた部分はレガシーとして大事に留め置き、メディアとのコミュニケーションを地道に重ねていくことでGEFらしい広報活動の最適解を模索していきたいです。キャンペーンの中身やわれわれの活動自体も、ステークホルダーにより関心をもってもらえる、真剣に受け止めざるを得ないような切り口を探すなど、もっと高度な発信を心がけていきたいと考えています。
※記載内容は2025年12月時点のものです
編集:いとう ひろこ 撮影:ほりごめ ひろゆき
Director: やまもとあさみ