INTERVIEW
複雑化する社会や組織の課題に対し、多様な立場の人を招き入れた共創的な対話の場「Future Session」を通じて、まだ見ぬ未来を共に実現することを目指す株式会社フューチャーセッションズ。ひとしずくは2019年から同社の広報支援を行ってきましたが、2022年2月から新たに「ソーシャルリレーション活動」の支援を開始しました。ソーシャルリレーション活動とは、従来の広報活動とは異なり、組織が大切にする価値観を軸として、ステークホルダーとの継続的な関係性を築く活動のこと。フューチャーセッションズでは、どのように「共創」という理念を社会に広げているのか。約3年半の取り組みについて伺いました。
従来の広報とは異なるアプローチで取り組むソーシャルリレーション活動

ひとしずく担当 すずき なつこ(以下、すずき):
2019年からフューチャーセッションズさんの広報支援がはじまり、2021年には業務提携を締結し、さまざまな取り組みでご一緒しています。2022年には新たにフューチャーセッションズ内で「ソーシャルリレーションチーム」が立ち上がり、その伴走支援に私も関わってきました。このタイミングで新たにソーシャルリレーションに力を入れようと考えた理由、チームの立ち上げ経緯について改めて教えてください。
株式会社フューチャーセッションズ 坂本さん(以下、坂本さん):
当時は新型コロナウイルスの流行で先行きが不透明な中、自分たちからアクションを起こす必要性を感じていました。ちょうどフューチャーセッションズが設立10周年という機会もあり、社内から「10周年記念として自主企画を実施したい」という声が上がりました。100人へのインタビューや10周年にちなんだ10名とのセッションなど、さまざまなアイデアは出ていましたが、それらをどう形にするのか分からない状況でした。
すずき
2月から準備を始めて6月の10周年まで4ヶ月しかない、かなりタイトなスケジュールでしたね。Webサイト制作会社との初回ミーティングでも「ものすごく時間がないですね」と話したのを覚えています(笑)。
坂本さん
そもそもフューチャーセッションズには会社としての広報機能がほとんどありませんでした。私自身、広報やPRのバックボーンが全くない中で、何から始めればいいかも分からず、すずきさんのサポートに本当に助けていただきました。単純に「フューチャーセッションズはこんな会社です」と宣伝するのではなく、私たちが大切にしている共創の考え方そのものを広めたかった。フューチャーセッションズの名をPRするよりも、共創の価値を伝え、共創に加わる人を増やし、輪を広げていきたいという想いが、ソーシャルリレーション活動の根底にあります。
すずき
それは従来の「認知を広げる」「イメージ向上につなげる」ことのみを目的とした広報とは全く異なるアプローチですよね。フューチャーセッションズさんの場合、「共創が社会にもたらす価値」を伝え、それに共感する人たちとの関係性を築くことが重要です。そのためには、一方的な情報発信だけではなく、対話の場をつくることも必要だと理解しています。10周年では、特設ページの作成、これまで共創プロジェクトでご一緒してきた100名の方からメッセージをいただいたり、その方々とフューチャーセッションズのメンバーの対談も実施しました。対談では、実施した共創プロジェクトを振り返りつつ、今どんな未来を信じているのかを問いかけ、よりよい未来の解像度を上げるための「未来の兆し」について語り合いました。ただ、コロナ禍でインタビューがZoom中心になったため、ビジュアル素材が不足し、Webでの見せ方には苦労しましたね。

コロナ禍のため、10周年記念の対談はオンラインで行われ、デザインを試行錯誤した
坂本さん
屋外でのイベント開催も予定していましたが、結局雨になってしまって。会場を提供してくださったパートナーの皆さんにタープを張っていただき、なんとかその下で焚き火をしながらイベントを行うという、なかなか印象的な10周年企画になりました(笑)。

10周年の屋外イベントは、あいにくの雨だったが、焚き火をしながら心も体も温まる印象的な対話の場となった
すずき
初めて取り組んだソーシャルリレーション活動がたくさんの方を招き入れた10周年企画だったからこそ、その後の活動がスムーズだったと思います。
坂本さん
そうですね。振り返ると、10周年の企画の中に現在行っているソーシャルリレーション活動の要素が全て入っていたと感じています。リアルイベント、インタビュー対談、プロジェクト記事、プレスリリース、そして社員全員の運営参加など。今の活動の原型がそこにありました。
発信だけでは伝わらない共創の価値を体感してもらうイベント「共創総会」がスタート

すずき
10周年イベントの開催が、現在フューチャーセッションズが行う自主企画「共創総会」につながった点も良かったですよね。
坂本さん
はい。10周年イベントを開催するだけではなく、継続的に共創の場を提供していくことにしました。現在は年2回、フューチャーセッションズ主催で「共創総会」を開催しています。フューチャーセッションズが、共創に取り組むパートナーの方々と一緒に、「今」深めたいテーマについて対話し、共創を次の段階に進めていくための自主企画セッションのことです。これはソーシャルリレーション活動の核となる取り組みですね。
すずき
情報を一方的に発信するだけではなく、実際に人が集まって対話する場を継続的に作る。参加者の方々にフューチャーセッションズの価値観を体感してもらい、共創について一緒に考える機会を提供するとても良い機会です。なぜ、フューチャーセッションズさん自らが共創の場を企画することにしたのでしょうか?
坂本さん
フューチャーセッションがどのような場なのかを言葉で伝えるのは難しく、実際に参加してもらう機会も限られているからです。コロナ禍でリアルな場のセッション開催が減ったこともあり、自らリアルな場における対話の価値を伝え、生み出していく必要性を感じました。
すずき
私も共創総会に初めて参加した際は、これこそがフューチャーセッションズの価値を伝える重要な場だと強く感じました。参加者の方からも「もっと社内の人にも共創の場を体験してもらいたい」という前向きな声や、「共創の必要性は理解できたけれど、日々の業務にどう活かせばいいのだろう」といった率直なお声もいただき、継続的な対話の重要性を実感しています。
発信活動の体系化で想いを伝える仕組みをつくる

坂本さん
ソーシャルリレーション活動を支援いただいてから、広報の活動量が増え、幅も広がりました。それまでフューチャーセッションズのWebサイトに掲載された、過去のプロジェクト記事は20本弱程度でしたが、2025年にはその倍の数の記事を掲載できています。SNSも毎週発信するようになり、メルマガも継続的に毎月配信、noteも開始しました。それらを見て共創総会やオープンセッションへ参加したというお声もいただくようになりました。活動を「型」化していただけたからこそ、継続的な発信ができています。
すずき
まずは発信すべき情報の可視化からはじめようと、全社会議でヒアリングを始め、PRカレンダーを作成してセッション情報を集約しました。また、SNSなどは投稿の負担をなるべく減らせるようフォーマットをつくり、分業しやすくし、ルーティン化された定期的な配信が継続できる体制をつくりました。
坂本さん
また、過去のプロジェクトに関する記事についても、構成やトーンを一緒に見直していただきました。それまでは各プロジェクトを担当していたメンバーが記事を作成していて、トーンや構成も統一感があるようでないような状態でした。
すずき
プロジェクトの価値や、フューチャーセッションズの担当メンバーがプロジェクトの一員としてどのように関わっていったのかが分かるような記事にすることを意識しました。 「フューチャーセッションズに頼んで良かったことはどこですか?」というようなマーケティング的な目線の質問と回答を中心にする構成にならないよう、内容を再考して。共創プロジェクトにフューチャーセッションズのメンバーが一員として一緒に関わり、その中で生まれた気づきや学び、感じた社会変化などを中心にしました。共創のプロセスとそれがもたらした変化もしっかり見えるような内容になるよう記事のフォーマットを相談しながらつくっていきましたね。
坂本さん
ソーシャルリレーションに継続的に取り組んでいると、社内のメンバーからも積極的に協力してもらえるようになりました。毎週の全社会議でソーシャルリレーションチームの活動トピックスを共有する時間を取り入れることで、チームメンバー中心に取り組んできた活動が、だんだんと全社ごとになっているのを感じています。
すずき
それは本当に良かったです!活動を始めた当初は、インナーコミュニケーションの課題もありましたよね。
坂本さん
はい。コロナ禍でリモートワークの割合が増えたことや、メンバーがそれぞれのプロジェクトに全力集中するあまり、社内での情報共有に割ける時間が少なく、対話がもっと必要だという課題意識もありました。社外への発信だけでなく、社内での情報共有や対話を生み出すことも意識して全社会議の中に情報共有の時間を設けることにしました。
発信を始めた当初はソーシャルリレーション活動の意図が社内メンバーにもそこまで伝わりきっていませんでした。ですが、情報共有の時間を設けたことで「こうした方がいいのでは」と、意見をもらえる機会が増えてきて。私たちも最初はスタイルを探りながらの発信でしたが、社内で対話を重ね、徐々に発信を増やしていくうちにフューチャーセッションズが考える発信のスタイルができてきていると感じています。時々、「この発信の方向性はちょっと違うのでは」と率直な意見が出ることもありますが、それはメンバーも本気になって考えてくれている証拠だと捉えています。本当にありがたいことです。
伝えたいことの核を明確にして発信していくには、社内のメンバーとの対話を重ねる必要があり、どうしてもじっくりと時間をかけてかたちづくっていくことが必要です。時には意見が発散して結論がすぐに出ないこともありますが、試行錯誤を繰り返すことでよりみんなの納得感の高い発信ができている。すずきさんは、辛抱強く取り組むことの必要性を理解して伴走してくださって、本当に感謝しています。
共創から次の共創へ。価値を広げる発信活動
すずき
ありがたいお言葉をいただき、とても嬉しいです!逆に、ひとしずくの広報支援の中で、今後の課題として捉えている点はありますか?
坂本さん
ひとしずくさんの課題というより、活動の課題なのですが。ソーシャルリレーション活動の効果は、「何人にリーチした」「何件の問い合わせがあった」という数値では測れない部分が多く、検証が難しいなと感じています。共創総会に参加した方の声や、継続的にメルマガを読んでくださっている方の反応などから、手応えは感じていますが。
すずき
ソーシャルリレーション活動では、関係性の質や深さが重要な指標になりますよね。それを視覚化できるようにしたいですね。共創総会から実際に新しいプロジェクトが生まれたり、参加者同士の継続的な対話が始まったりすることが、本来の成果だと考えています。
坂本さん
フューチャーセッションズがきっかけで繋がった人たち同士の共創プロジェクトが生まれることが理想です。共創総会を入口として興味関心を高めてもらい、メルマガやSNSで継続的に情報に触れてもらい、最終的には一緒にプロジェクトを起こす。そんな循環をつくっていきたいですね。
すずき
実際に、ある企業から発行された共創をテーマとした書籍があるのですが、そのアイデアは共創総会から生まれたという事例もあります。このように、場づくりから具体的なアクションが生まれていくのがソーシャルリレーション活動の醍醐味だなと嬉しく感じました。
坂本さん
課題といえば、私自身も広報の知識についてはまだまだ学ぶ必要があると思っていて。私たちが広報のノウハウやセオリーをきちんと押さえられていないがために、すずきさんにご迷惑をかけていないか不安です。
すずき
広報活動を行うにあたり「こうすると良い」といったいわゆる王道のやりも存在するのですが、それがいつも当てはまるわけではありません。何より大切なのはその人や組織が大事にしている考え方や価値観。それに合わせてセオリーを変えていく必要があると考えています。フューチャーセッションズさんの場合、共創の想いや背景を大切にし、プロジェクトをより多くの人にしっかりと知ってもらうことを優先する、それがフューチャーセッションズらしい発信のあり方だと思います。だからこそ、ノウハウやセオリーを知っていることはあまり問題ではないと考えています。むしろフューチャーセッションズさんなりのセオリーを一緒に考えていきたいと思っているので、遠慮なくどんどん相談してください!
坂本さん
では遠慮なくこれからもお願いします(笑)!定量的な効果測定よりも、定性的な価値観や考え方を重視して発信活動を考えてくださっていますよね。社内でさまざまな意見が出た時もひとつひとつにしっかりと耳を傾け、かつ前に進めるようにペースメイクしてくださっているなと感じています。
すずき
最後に、今後のソーシャルリレーション活動としてどのようなことに取り組みたいと考えていらっしゃいますか?
坂本さん
先日開催した第4回目となる共創総会では、パートナー企業さんとの共同開催が実現しました。このコラボレーションによって、フューチャーセッションズを初めて知った方にも共創を体感していただくことができ、大きな成果と新たな可能性を感じています。この例のように、今後は多様な方々とコラボレーションしながら、新しい関係性を構築し、ソーシャルリレーション活動の効果を大きくしていくことができたらと考えています。あとはフューチャーセッションズがきっかけでつながった人々同士が新たな共創プロジェクトを立ち上がる流れをつくっていきたいですね。

第4回共創総会では、初のパートナー企業との共催が実現し、70名近くの人々が集い、対話を重ねた
すずき
そうですよね!私も先日の共創総会に参加して、斬新なアイデアや新しい価値観にも出会うことができてとても新鮮な経験ができました。ここから新たなプロジェクトが生まれると考えただけでワクワクしますね!
坂本さん
これからも組織としてのコミュニケーション戦略など、一緒に考えていただけるとありがたいです。共創プロジェクトの創出という大きな目標に向けて、引き続きよろしくお願いします。
すずき
もちろんです!坂本さんはじめソーシャルリレーションチームのみなさんが社内メンバーの意見に真摯に向き合ってらっしゃるからこそ、良い活動ができています。効果測定など課題もありますが、共創を社会に広めるという素晴らしいミッションにこれからもご一緒させてください!

撮影:ほりごめひろゆき 編集:つじはらまゆき
Director: すずきなつこ